世界的な枯渇、そしてこのテキストを書いている2023年の春は長引く円安為替に悩まされ、海外から逆輸入で 入って来るリッタークラスの空冷Z系車両は軒並みベース車両の確保が難しくなった。サンクチュアリーでも数年前 から買い溜めておいたベース車を小出しに提供してRCM製作に臨む日々。駆け込み需要もあって、買い溜めた 以前のベース車も今やわずかに数える程度となってしまっている。そんな正に厳しい時期にオーダーされたこの RCM-585のオーナーは、先々もっと手に入れるのが難しくなると判断。

予算を捻出するのに時間が必要と言う事 から、購入はするものの精算と納車は1年越しでと言う計画を立ててオーダーを頂く。折りしもRCMのオーダー数が 重なっており、製作側としても時間を頂ける分には助かると言う事でオーナーと造り手との思いが一致する。かくして RCM-585 Z1-Rの製作は始まった。前後17インチホイールシャシーを導入されたフレームにはサンクチュアリー オリジナルのフレーム補強ステージⅡを施す。同時にワイドレイダウンやドライブチェーンオフセットインライン処理 など、最も重要となる肝心要のフレームは特殊専用治具を駆使して造り込んだ精度の高い仕上がりである。

更には 正確なホイールセンターとチェーンラインなど足回りのアライメントにおいても、根拠ある数値から正確さを求めた フィッティングを敢行。あるべき場所にあるべき部品がきちんと整列された。エンジンはハードな走りを追求したもの ではなく、街乗りからツーリングまで幅広い用途に対応したライフパッケージコースで、耐久性と扱い易さとに重点を おいた仕様である。ハードラン向けでないとは言えエンジンのオーバーホール自体は高い完成度としたいから、最も 重要となる内燃機加工をディンクスが担当。内燃機加工の仕上がりは精密そのもので、それはイコール完成後の キャブレターセッティングの導き出し易さ、乗り易い良質なエンジン特性に直結するから最重要工程とも言えるだろう。

マシンの完成度、そしてビジュアル面と、RCMは二つの要素を大事に製作されるコンプリートバイクである。全てを 満たすべく丹念な工程で組み立てされて行くが、それでも非常に軽微なトラブルは起こり得る。50年も昔に生産 された旧車がベースなのだから止むを得ない面があるのは事実だ。それでも、基本的な構造部をしっかり造り込み、 かつ、丹精込めて製作されたマシンは大きく機嫌を損ねる事はない。根本たる部分がしっかり出来ていれば熟成を 経てより良い完成度に至れると言うものである。長期で製作し完成に至ったRCM-585だが、ここからは乗り手に 合わせた更なる発展をまた長期で取り組んで貰いたいと、改めてRCMに期待感を持たせて貰った1台である。