Z1-R最大の泣き所であるステアリング特性は、以前より申し上げてる通りフロントマスク回り部品の総重量が あまりにも重く、それがステムに固定されている事が原因で軽快さを欠いている。軽快さはおろか、加速時に 激しいハンドルの振れを起こす事もあり、ある意味で危険さを共なった構造である。俗っぽい例えだが、これを 通称「ママチャリかご満載ハンドリング」と呼んでおり、その名の通り、買い物カゴ一杯の自転車で全力で漕いだ 経験のある方ならその不安定さはピンと来るだろう。このZ1‐R特有のハンドリングは、トップブリッジに取り付け された重さのあるノーマルメーターやアッパーカウル本体の重量、また空力を無視したカウルの形状などが原因 である。メーターを軽いものに変更するだけでも多少の改善効果はあるが、根本的解決となると、現行のスポーツ バイクの様にステアリング回りに何も装備しない事が求められる。

これがアッパーカウルのフレームマウント化で、 このRCM-576は正にその仕様に造り込んだマシンである。Z1‐Rの場合、ステアリング回りに装備されている ノーマルメーターなどの装備が非常に重い為フレームマウント化によるハンドリングの向上は劇的な変化を生む。 カウルは前を向いたままステアリングだけが左右に切れる状態になるのだが、実はバーハンドルでこの仕様を 成り立たせるとなるとカウルの位置が自ずと前方に張り出てしまう。前に張り出しすぎたカウルは違和感があり、 機能とルックスの両立を目指すRCMとしては受け入れられない位置である。その為、カウルの形状の加工や ワンオフブラケットの構造、そしてハンドルバーの位置や高さなど、様々なパーツを細かく擦り合わせて許せる 限界の位置に取り付けをしている。

そんな拘った造り込みでのステアリング回りに合わせた足回りは、こちらも RCMに相応しい仕様で、世界選手権アイテムのO・Zレーシングホイール・OHLINSサス・Bremboブレーキと 最高峰のメーカー製品のみを厳選。世界トップメーカーのシャシーパーツをより生かし切るべく、フレームへの 補強や各種加工はきっちりと仕上げ済みである。エンジンも精密内燃機加工のフルコースをベースに各種対策 部品を多数採用しオーバーホール。パワー&トルクアップも図っているが、ライフを重視した手堅い仕様である。 他にもマフラー・キャブレター・メーターなど、このRCM-576については月並みさがない。可能な限りハイエンド なコースメニューで造りたいと言うオーナーの意図を感じるスペックである。

外装カラーにおいても遊び心は取り 入れられているが嫌悪感を感じさせないセンスで、バランスの良いカスタムマシンに仕上がっていると言える。 ベースとなったZ1‐Rは世界的に枯渇し、中古車相場価格は今もジワジワ上がり続ける一方でいよいよ手が 届かなくなって来ている。厳しい最中、それでもこのRCM-576のオーナーは自身が抱いて来た夢を実現させた。 好きな機種をベースに拘りのカスタマイズでオーダーメイドしたのだから、RCMらしい実に贅沢な1台である。