フレーム補強
過剰な補強は行わない
ストリート走行において体感するフレームのフラれ、ヨレ等は多くの場合、車体の基本的な造り込みと消耗度などが大きく影 響していると考えられます。現行の高性能なサスペンションやブレーキ、そして高剛性なステムとスイングアーム、ハイスペックなラジアルタイヤ等、フレーム に掛かる負荷の大きさを考慮すると、フレーム本体を補強する事の必然性が生まれてきます。
剛性の高いフレームにする為、補強箇所を増やす事自体は簡単な事です。ここも、あそこもと、やたらに補強したくなる気持 ちもわかりますが、過剰に補強されたフレームは、重量面において不利になることはもちろん、悪質なバイブレーション(ハンドル・ステップ等のポジション系 統に伝わって来る微振動)を過大に発生させてしまう可能性があります。それは乗り手に対して不要な努力や技術を要求し、不快な疲労感を与えるだけでなく、 エンジンリジットポイント周辺部へのクラックを発生させる原因にも繋がります。能率の悪い補強によって、Zのスチールフレーム特有の良好な特性をスポイル してしまないよう、細心の注意を払います。
ハイスピード走行時に発生する車体のウォブル。俗に言うフラレ、ヨレなどと言った類の言葉をよく耳にします。対象となる具体的な代表機種をあげるならば、KAWASAKIのZ・KZ系・GPZ-R ニンジャ・SUZUKIのカタナ・HONDA CB-F系など70年~80年代の生産マシンに集中すると思います。
フレームの仕上げ行程。写真奥から、補強加工→サンドブラスト下地処理→パウダーコーティング。
フレーム補強における2つのテーマ
- A. 剛性の確保
- 加速・減速時に発生する強い負荷を高い剛性で受けとめ、車体が安定する性質を持たせる。
- B. 応力の分散を考慮する=各部疲労破断の防止
- 剛性の上がった補強フレーム独特のバイブレーションや走行中の負荷から来る強い応力の集中を逃がし、フレームやクランクケース等への疲労破断を防ぐ。
2つのテーマは互いに影響し合う密接な関係にあり、ある種の建築学的要素を含んでいます。優秀なフレーム補強はそれらの要素を踏まえた上でハイレベルなバランスを保つべく、効率のよい補強作業を施された物なのです。
補強メニュー
SANCTUARYではSTAGE-1~STAGE-3までフレーム補強のメニューを、足回り及びエンジンの仕様・用途にあわせて選択しています。
加工手法においては、溶接後に発生する縮みや歪みを防ぐため、数種類のオリジナルの専用固定治具を用いて高精度な仕上が りを実現します。使用する補強材は、従来のSCM(クロモリ鋼)に代わり、最近では同炭素鋼であるSTKM13CやS45Cを中心に使用しています。 SCM(クロモリ鋼)より強度の点ではやや劣るものの、溶接良好性、また溶接後の定着性など優秀な面も多く、メーカーがクロモリ鋼のみでフレームを製造し なかった事の意味をそこに感じ取る事ができます。
また補強材形状の精度を上げる為、市販のいわゆる補強KIT等は一切使用せず、各部補強材の製作から始まり、全て手作業 による丁寧な摺り合わせを施した後、溶接を行います。溶接部の合口の形状、隙間などが、最終的な仕上がり精度に大きく影響してくる為、歪みや変形への配慮 は非常に重要です。せっかくの大切な愛車のフレームです。やり直しのききにくいフレームなのですから、補強材そのものの完成度からこだわりたいところで す。