ゼッケン39 最後の挑戦(最終回)
Zレーサー3号機のエンジンに、異変を感じとった國川浩道・・・
8周目からエンジンへの温存を配慮して ペースダウン・・・
ここから58秒台ラップは消え、59秒台での周回が続く。
空冷エンジンはそもそも 高温化による出力損失が大きい構造である。
排気量と圧縮を上げ爆発力を大幅アップすれば 自ずと故障リスクは
水冷エンジンよりも大きく跳ね上がる・・・
だが 安全圏内の130馬力では あの水冷ハーキュリーズマシン達に
立ち向かう事は全く持って不可能で、例え馬力リスクが上がろうとも
高出力化を求めない訳には行かなかった・・・
ところがZの場合、空冷である事は元より 2バルブと制限のある
構造から高出力化への難易度が高く、かなりギリギリまで絞った
チューニングを必要とする・・・
すると当然 エンジンブローの可能性は格段に高くなるから、常に
危険と隣り合わせ。
これが空冷Zで挑む事の、最大の難関であり 現実・・・
あたり前な話だが、ひと言で言えば 空冷Zはエンジンが古いのだ。
では、なぜそんな空冷Zで挑むのか?
それは 私のエゴ・・・ つまり、マンガが見たかったからである。
テイストオブツクバの前身レースである テイストオブフリーランスは
空冷4発マシンを主軸とした ヴィンテージマシンレースだった・・・
そんな空冷旧車のレースに どっぷりのめり込んだ時代があり、その
迫力と存在感を 今も忘れる事が出来ずにいる。
テイストオブツクバになり、時代の流れと共に新鋭車両が数多く
参加できる様になって、空冷Zは完全にヴィンテージクラス専門と
なった感があった・・・
旧車なのだから もちろんそれで良いのだが、私にとって空冷Zとは
いつまでも神速を誇る、永遠に最速の存在であって欲しい・・・
すなわち ZでNinjaを抜く、 Zで最新SSマシンを抜く事。
だが現実は あまくない。
そんな事が可能なのは コミックスの世界だけの事なのだろうから。
そんな自分の無茶なエゴにつき合ってくれた、國川浩道。
心から ありがたいと思うし、 同時に申し訳ないとも思っている。
本当は空冷Zでは、チューンナップした水冷・油冷に勝てない事を
私だって知っているんだから。
だが今日は 最初の2周・・・
そんなコミックスの中でしか見られないシーンを、現実に見れた。
こんなにカッコいい現実は そうある事ではない。
果たして会場にいた何人の人達がこの事に気付いたか わからないが
私は涙腺の緩みを止められないほどに 感動したのだ。
エンジンパワーで最も劣るマシンが、例え ほんの一時であっても
トップだったのだから!
やがてチェッカーが降られ、レースは終了。
國川は誇らしげに 手を振る・・・
私は 「國川、君こそが本当の勝利者だ」 と・・・
そう思った。
歓喜に沸く グランドスタンド前。
スーパーモンエヴォにもドラマがあったが、ハーキュリーズにも
この日、大きな記録が生まれると言う もう一つのドラマがあった。
この場の 中心にいれた事を誇りに思うし、同時に感謝をしている。
それは この場にいたサンクチュアリーのメカニック、全員が・・・
感じた事でもあっただろう。
そして ここまで苦しい道のりを歩んだ、二人の絆・・・
よもやシェイクダウンレースで ここまでの結果に辿り付けるとは
思ってもいなかった事・・・
皆 疲れ果ててはいるが、それ以上の強い充実感があった。
パワービルダー針替君がめずらしく 握手を求めに来てくれました。
これは嬉しい・・・ とても光栄に思います。
でもこの日 パワービルダーは57秒843と言う、尋常ではない
レコード記録を叩き出している。
それに比べれば 自分達は、まだまだ力不足だと言えるでしょう。
針替君、そして山根選手、誰も成し得ていなかった57秒台での
レコードタイム更新、本当におめでとうございます!
何はともあれ
ライダー 國川浩道の走りには、魅せられたぞーっ!!
空冷最速 スーパーモンスターエヴォリューション クラス優勝
おめでとう!
ベストタイム、空冷Zでの58秒664も 本当に凄い!
そしてハーキュリーズとの混走 総合でも2位と言う、素晴らしい
戦績に賞賛が送られる!
國川浩道に笑顔が戻った。
結束の力も信じよう! 今日ばかりは その気持ちを抑えられない!
スピードショップイトウのアキオが、心から祝福してくれる。
アキオの援護がなかったら この結果はなかっただろう・・・
彼もまた 空冷Zに魅せられた一人であるのだ。
厳しい戦いでした・・・
何かと言えば それは、レベルが異常なまでに高くなっていた事。
江戸川区時代に Zレーサー1号機・2号機で臨んでいたレースの
面影はなく、あの頃だったら 太刀打ちできなかったと・・・
今になって背筋が寒くなり、始めてレースを恐いと思いました。
國川浩道が初めてサンクチュアリーを訪れた時の あの言葉・・・
「レースではストリートの10倍 マシンに負担が掛かるんです」と
語っていた事、今更ながらしみじみ思い起こしています。
空冷Zで挑めるのは、もう ここまでだろうか。
終わって ここまで弱気になったレースも、また初めてでした。
この後の事は まだわからない・・・
ただ 目指していたタイムに届いていない事だけは、確かである。
【THE END】
= 音声付き動画 =