レースはつくづく 厳しいものだと思う・・・
ましてやそれが 頂上クラスでの戦いとなると、過酷と言う言葉以外
何も思いつかない程だ。
これまでも数多の試練にさらされ、都度 折れる事なく立ち向かい
超えて来た サンクチュアリー本店レーシングのクルー達だが・・・
今回のレースは、未だかつて経験した事ない 高いハードルに挑んで
いるのだと、痛烈に感じさせられた。
走行毎に下ろされ、仕様変更を繰り返す エンジン。
誠太郎が車体に捕まっているから、おのずとエンジンは・・・
中村自らが 組むしかなかった・・・
そりゃ大昔なら 毎日エンジンに囲まれ暮らすような生活だったが
今は社長業や接客がメインであって、よもやここまで レーサーの
エンジンに対峙するとは 予想もしなかった事なのだ。
しかも必要となるエンジンは、平凡で月並みなものではない・・・
正直 110馬力~120馬力の仕様であれば サンクチュアリー本店の
メカニック達も組めるが、それを超えるとなると誰しもが出来ると
言う訳ではないから、自分がやるしかなかったと言う経緯である。
シャシーダイナモが設備されていなかったら 本物のセッティングは
出来かっただろうと、今更ながら痛感させられている・・・
もはや空燃比計測なしでセッティングをする事自体 どうなのかなと
そう思わされるほど、今までのセッティング行為を覆したのだ。
練習走行を明日に控え、閉店間際に ようやくここまで辿り着いたが
点火時期と燃調を少し変更してあげると、環境補正なしの設定で
最高出力 143.18馬力、最大トルク 11.89まで数値は上昇。
もう少し時間をかけてセットを進めれば、もうあと1~2馬力は
間違いなく載る感じですよと 誠太郎は語るが・・・
145馬力でも、まだ足りないのだ。
ここに数馬力を上乗せしても、水冷最速 ハーキュリーズクラスの
190馬力オーバーマシン群を始め、同じスーパーモンスターエヴォ
クラスの 1990年代生産空冷マシンにもストレートで離されるから
極めて・・・
極めて厳しい状況だ。
迎えた朝の 筑波サーキット・・・
ここまで4回に渡り 走行をして来たが、まだ一回とて纏まって
おらず、全開走行が出来ないイラ立ちを抑えて臨む、國川浩道。
今日から明日にかけて、連続で2日間 走行予定が組まれている事
からも、このままではセットが終わらぬまま10日の決勝を迎えて
しまうと言う 追い込まれた状況を物語っていた。
例えレースでも排気音量値は105デシベルと、レギュレーションで
設定されており 前回までのヴァリアントサイレンサーで測定すると
106デシベルと 若干だが音量オーバーしていた為、今回から手堅く
105デシベルまでで収まるサイレンサーをチョイスしていた・・・
もちろん この抜けの悪さも、パワーに大きく影響する要素である。
走り出してすぐに ピットイン?
何か いつものテーマとは違うピットインの様に感じたが・・・
どうやらクラッチが滑っている様だ。
クラッチ自体が消耗してる訳ではないから クラッチスプリングを
ハードなものに変えて対処するしかないが、ここまでクラッチが
滑るとは思ってもおらず、別のスプリングを持って来ていない。
たまたま隣のピットにいた ブルーサンダースの代表 岩野君が
「中古でよければ」と、予備に持っていたと言うスプリングを
快く貸してくれる・・・
かつてはお互い 空冷最速クラスで熾烈な戦いを演じた者同士だが
今は同じ空冷Zを愛し、空冷Zを まだあきらめていない者同士・・・
ちょっとした事だが、本当にありがたいと感じた。
実は オリジナルのスリッパークラッチKITを構想していた事から
Z系のリビルドハウジング+ロックアップ機構の組み合わせでは
なく、J/R系のクラッチASSYに変更していた・・・
だが クラッチカバーだけは ロックアップ対応のものを使用して
いたから、スプリングは容易に交換ができる。
早速 スプリングを変えて、コースイン。
ところが、まだ滑る。
致し方なく 近くのホームセンターでワッシャーを購入し、それを
スプリングリテーナーの下に2枚重ねで入れ クラッチスプリングが
線間密着するギリギリの所まで セット荷重をかける方法に・・・
クラッチの滑りがようやく止まり 快調に走り出したが、続いて
追い打ちをかけるかの如く、第二の問題が浮上してしまった。
ここまでずっと どこか不安視していた現在のシリンダーヘッドに
とうとう問題が出始めてしまったのだ・・・
ネットオークションで同時に購入した 2つのシリンダーヘッド。
最初に製作した1個目のシリンダーヘッドが 特別な仕様ながらも
プラグ穴のヘリサート不良がどうしても直せず、やむ無く2個目の
ノーマルシリンダーヘッドで ずっと走り続けて来た・・・
その2個目のヘッドも 最近になり、やっとツインプラグ加工だけ施す
事ができて、いずれはより馬力が見込める1個目のシリンダーヘッドに
戻す事を前提として、この2個目を だましだまし使っていたのだ。
ではなぜ この2個目のシリンダーヘッドを通しで使わず、何ゆえ
最初のヘッドに戻さねばならないのか・・・
それは
画像中央付近、カムプラグ部 ネジ穴から走るのが見てとれる・・・
2個目のシリンダーヘッドにもクラックが入っていたから、これを
決勝の仕様にとは さすがに行かない。
外から補修して ここまで問題なく走れて来たのだが・・・
この日の練習走行でついに 患部からオイル滲みを起こし出した
もう一つの爆弾・・・
今から急いで戻り、ヘッドのクラック修正を試まねば・・・
エンジンだけではない。
車体のセットアップが予想を大きく超えて 遅れているから、明日は
何としても走りたいのだ。
だが 翌日の走行で ついにとどめを刺される事になるとは・・・
この段階では まだ予想もしていなかった。