サンクチュアリーの日々の業務は、休むことなく 一年を通じて
とにかく過密、激務である。
江戸川区時代から ずっと変わらないが、柏に来てからと言うもの
それは更に倍加していて・・・
充実していると言えばそうかも知れないが、それにしても毎日が
目まぐるしいと言わざる得ない・・・
だからレーサーとは、息せき切りながらの対峙となる。
誠太郎がフレームの製作に掛かりきりだから、やむを得ないのだが
何の因果か、自分がエンジンを担当する事になってしまった・・・
やらなきゃならんと 決まったからには、もちろん真剣に取り組む。
やり甲斐ある事でもあるのだから・・・
とは言え、正月休みを返上してまで 作業するしか時間が作れない
そんな現実・・・
当然 可能な限り、誠太郎にも手伝って貰うのだが・・・
特別な仕様のエンジンを丸々組む事自体、我が愛機 001以来の
事であり、ぶっちゃけ 社長業と事務に追われまくられる毎日だから
おのずと休みが犠牲になってしまう・・・
だが・・・
ここ サンクチュアリーでレースを任された男達は、言わずもがな
皆が そうであった・・・
休みがどうこうと、損得勘定が気になるなら とうてい無理な事。
情熱なければ そもそも資格はないのだから・・・
レーサーのエンジンとして クランクケースの不要部位を切り落とし
軽量化を図った・・・
アルミの場合、削り取った労力の割に それほど軽くならない・・・
見返り少ないのが残念であるが、わずか数グラム単位の積み重ねを
軽視しないのが サンクチュアリーのレーサーであるから、この後も
地道に肉抜きを進めて行く。
3号機では、空冷GPz1100のクランクを採用する事にした。
クランクピン径が大径化され、かつ ウエイトが軽量形状であり
コンロッド小端部が従来の φ17からφ18へと拡大されている。
クランクシャフトは 一端全て分解し、ウェイトは菊地に任せて
鏡面加工・・・
4つのコンロッドは重量バランスを揃えるべく、工場で加工する。
ザラついたコンロッド表面を 平たく慣らしながら、同時に重量を
統一させるのだが、磨きながら合わせるから 以外に時間の掛かる
作業だ・・・
ただ全体重量を 揃えれば良いと言う訳ではない・・・
1万回転超のストロ-クで ピストンとクランクシャフトを繋げ
高負荷の渦中にさらされるメンバーだから、小端部と大端部の
上下別に重量あわせて 初めて運動ムラは消える。
コンロッドはそれ位 過酷な条件下にあるパーツである・・・
鏡面研磨とフルバランスを終えた後、WPC処理を施して完成。
あとはパートナーである ダイヤモンドエンジニアリングにより
新品のクランクベアリングを用いて 精密に組み立てるだけ。
その道 数十年と言う、熟練の専門職人の手にゆだねた・・・
クランクシャフト一つ 完成させるだけでも、相当な時間を要する。
それほど手を加える必要があるのかと言えば、答えは「ある」だ・・・
決して過剰ではない。
ほんの わずかばかりの効果であっても、全てチェックマークを
つけて進む・・・ それが レーサーのエンジン・・・
少なくともTOTの 空冷最速クラスに臨むのなら、必須科目だ。
日常業務の2倍・・・
いや、 3倍以上の時間を労する 執拗なメニューである。
レーサーと取り組み合えば、予想以上に時間を失うのは確かな事。
本来行うべき、通常業務に差しさわりが出る・・・
すると結果、お客さん達から受けた仕事に影響し 納車が遅れる。
あわせて会社の財務も悪化・・・
レースさえやらなければ健全だったのに・・・ と言う 本末転倒な
事態に陥る事が、実際 ほとんどだろう。
が しかし、我々カスタムチューニング業者にとってレース活動は
重要な情報と経験値を得る為の 大切な源泉である。
通常業務のノウハウへと転化される事なのだから、その活動とて
なくてはならない 行為・・・
では一体、どうすれば良いのか・・・
答えは 簡単
どちらも見事 こなしてみせれば良い。
レースをやると 日常の仕事に悪影響が出るから、あきらめる・・・
そんな概念、根底から覆すべきなのだ。
お客さん達から依頼された仕事は もちろん、犠牲にしない・・・
これは絶対である。
そしてそこを、絶対順守しながらレースに臨む・・・
ここを乗り越えられる事が出来なければ レースは一生できない。
あるいはレースをやり続け 最後は破滅するかのどちらかだろう。
二兎追うもの 一兎を得ずとは言うが、何としても両立させる事を
目指して この3年間、サンクチュアリー本店は体制を築いて来た。
現在の柏本店は完全にそこに照準をおいたものであり、何としても
成し得て見せると言う 気概で取り組んで来たのだ。
言うは易しではなく、必ず実現させてみせると・・・
皆がそれぞれに役割を果たし、一つ進化した体制を築くのである。
正義なき力は悪なり・・・ が また、力なき正義もまた悪なり。
昨年イタリア出張の際に ふと思い起こした、かの極真空手の始祖
故大山倍達氏の名言が ふたたび頭をよぎる・・・
一バイク好きのメカとして、仕事とレースのどちらも損なわない。
一企業として、どちらも両立する事ができる強靭な会社体力を持つ。
いつの日かではない・・・
業界に残された時間は あと わずかなのだから、今すぐにである。