ゼッケン39 最後の挑戦(その9)
引き続き Zレーサー3号機シェイクダウン、後編をお送りします。
梅雨の合間に晴れに恵まれた、筑波サーキットのパドック。
コース上にはまだ走行車両はなく、清閑な時間帯・・・
鈴木誠太郎を筆頭に 佐々木新一、仁科翔の 真サード世代。
3名共に役割りの分担は決まっており、レースでは欠かせない
互いのコミニケーションを取る事が できる者同士として編成。
技術・経験・知識 と言った部分は もちろん非常に重要な事だが
最も大切なのはメカニックの性格で、初回ブログでも書いた様に
レースも結局 誠実さが問われる現場であると言う事・・・
メカニックの人柄・性格が レース結果に大きく影響するのだが
その点において真サード世代は、今現在 最もバランスが良いと
思える精鋭達である。
この日は ライダー 國川浩道の顔にも、笑顔が浮かぶ・・・
そして 誠太郎にも笑顔が・・・
走らせてあげたいと 一番思っていただけに、嬉しさもひとしお
だった事だろう。
サンクチュアリーレッドイーグル 吉田裕也も、忙しい最中に
時間を作って 応援に駆けつけてくれた。
この裕也は元々 國川浩道と親交があり、また誠実で謙虚な人柄
からか 信頼も厚かった。
もう一人・・・
國川浩道が その人間性に絶対的信頼をよせる、江尻氏も登場。
彼もまた「人柄」と言う力を使うタイプで、想いは同じ・・・
これにてチームメンバー、全員そろい踏みである。
真サード世代の3人は、昨晩の疲れを相当引きずっている様子。
眠さと気だるさはあるが、この後 Zレーサー3号機が走ると言う
その事実だけが 皆の気持ちを奮い起こす。
とは言え、昨晩のマシントラブルを懸念してない訳ではない。
恐らくは走行中、何らかのタイミングで時限装置にスイッチが
入るであろう事は、もう今この段階で容易に予測出来た。
もちろん問題点は 國川にも伝えてあるが、それでも走る姿勢に
変わりはない。
Zレーサー3号機は、製作に時間が掛かりすぎた事は確かである。
だが 日々の通常業務を犠牲にする事なく、またレーサーとしても
最終走者に相応しい仕様を追求し 造り込んだのだから、それ相応
時間が掛かってしまった事は 致し方ないとも言えるだろう・・・
そんな複雑な想いが 流れるなか・・・
もはや 國川の目には、マシンしか映っておらず。
A16のオリジナルフレーム 1R9Sで立ち上がったマシンな
だけに、サス・車体姿勢のセットアップは 何も指標ない所からの
スタートであり、更に 空冷Zのエンジンにインジェクションを
装備させたパワーユニットなのだから、そこもまた ゼロスタート。
従来のマシンに比べて セットアップに長い熟成時間を要する事は
承知の上の事であったから ここまでの経緯ではなく、これからの
取り組みに集中したいのだろう。
今だ未完成の Zレーサー3号機・・・
どんな結果が待ち受けていようとも、記念すべき第一歩であり
2号機の引退から 10数年・・・
おぼろげなイメージでしかなかった3号機が、今 コースイン!
ところが!
周回してくる速度に、あきらかにスピードが乗っていない。
この場に居合わせた者いわく、3気筒で走ってる状態だったと
いうから 一体何が起こったのか・・・
わずか数周で ピットイン。
誠太郎は既に中のプラグを見ており、まるで検討がついてる
様にも見える・・・
「マシンが 進もうとしないんです!」 と、國川浩道らしい
実に真っ直ぐな表現が・・・
早速PCを接続して、マップをチェック・・・
これまでのレース活動では見なかった光景だが、もう随分と
前から 全日本ロードレース選手権を始めとする世界中での
レースの現場は これが当たり前の事・・・
当然 國川浩道自身も マップ調整には長けており、自ら見て
確認をする・・・
最も ここに大きな原因がある訳ではないのだから、調整しても
成果はないのだが。
やはり これかと、恐る恐るプラグを抜く・・・
原因は、前の晩から不安視されていた 中2気筒のBプラグ・・・
ヘリサートの更にオーバーサイズ、緊急で加工して造って貰った
外周のアルミスリーブが溶けていた・・・
そう、あの時ヘリサート修正した2ヵ所こそが 時限爆弾。
組み立て直後は問題なかった修正箇所だったが、徐々に溶解し
前の晩から圧縮が抜け始めていたのが、瞬時に 悪化したのだ。
すぐには直せない!
一端 ピットロードからマシンを出して、再走を試みる事に。
一気に慌ただしさが増した ピット内・・・
エンジンに火を入れ プラグの近くに指を寄せると シュッシュと
ガスが抜けていたと言うから 相当ひどい状態になっている・・・
しかも インジェクターのカプラが一つ、抜けかかっていたと
いうから 走らないのは当たり前だ・・・
こうなると、もう ここでの成す術はない。
くやしいが 無理は禁物・・・
この時点で 走行は終了となった。
これが6月末に行われた、Zレーサー3号機のシェイクダウンで
わずか数周と言う 散々たる結果であったのが、事実であり真実。
この残念で情けない展開に対し、もちろん私中村も含め
サード世代全員 言い訳はできない・・・
どんなプロセスがあったとて結果は結果であるのだから、何かに
こじつけて理由を付けたくはない、それは皆 同じ気持ちである。
それでも國川浩道だけは、不思議にも 屈託なき笑顔を見せていた。
後日談になるが、國川浩道から私に電話があり・・・
いやぁー まずはスタートが切れて良かったです!
こういうトラブルを 一つひとつ解決して行くのがレースですから
むしろ良かったです! と・・・
予想とは逆の感想に 少々驚かされた。
今だ未完成の Zレーサー3号機。
第一ラウンド わずか数周でノックアウト負け・・・
受け入れねばならない これが現時点での結果であり、現実だ。
ネガティブな結果だが 包み隠しはしない。
なぜなら・・・
3号機の歩みは 始まったばかりであり、これからなのだから。
次こそは
最終コーナーから激しく立ち上がって来る 走りを見れる!
ゼッケン39 最後の挑戦
これより真骨頂へと突入。