レースは一人で 出来るものではない・・・
ライダーと 絶対的なチーフメカニックが、大きな存在感である事に
違いはないが、それだけで結果を残すのは 並大抵の事ではない。
チームなのだから、人と人との繋がりこそが大事であると感じている。
ゼッケン39 最後の挑戦 (その7)
また画像24枚の大増版にて、ご紹介を致します。
今年5月の大会を目指して、マシンが間に合わなかった事・・・
今更ながら 間に合いっこない物量であった事を目の当たりにし
よくもまぁ5月に間に合わせる などと、ほざいたものだ。
ライダー以外にも、複数の専門業者が絡む レース活動なだけに
大きく遅れた事に対して反省の言葉以外 何も浮かぶものがない。
さかのぼる事、一年ほど前・・・
セイクレッドグランデの新保氏に サスペンションの担当を依頼。
セイクレッドグランデはサスペンションの専門業者で、自分達
サンクチュアリー本店と同じ 柏市内にあり、日頃からストリート
車両のサスオーバーホールを依頼している。
新保氏は レーシングマシンのサスセッティングにも精通しており
頼りになる存在だ。
3号機はA16のフレームである事から、OHLINS製 倒立フォーク
FGRT200を採用。
レングスはA16に丁度良い 760mmなのだが、丁度良いと言う
事は フロント回りをこれ以上高い状態にする事が出来ない訳だから
車体のセットアップに制約を残してしまう・・・
そこでフロントフォークを分解して 10mm長い770mmへと
モディファイして貰う事になった。
分解ついでに 内部パーツに手を加えて、サスペンションとしての
機能もモディファイして貰う事に・・・
些細な事かもしれないが、サスは ほんの少し手を加えてやる事で
驚くほど良くなるから、レースでは ごく当たり前の行為である。
新保氏は「シェイクダウンの際は 自分もピットに入ります!」と
ありがたい言葉だ。
待望のシリンダーヘッドが完成・・・
ノーマル7mmステムではない 細いサイズのリン青銅ガイドに
大径のバルブフェイスに対応した 大型シートリングへの変更だ。
早速 仮り組みをして、バルブタイミングを取る・・・
カムシャフトは今回 バルブスプリングの線間密着が判明したため
残念ながらWEBカムを見送って、やむを得ず1号機で使用してた
カムを再使用する形で妥協した・・・
空冷エンジンには厳しい梅雨明け前に シェイクダウンをしたいと
言う意図があり、先ずはバージョン1エンジンとして 求めていた
トルク&パワーを先延ばしする事になった故である。
岐阜のスピードショップイトウの代表、伊藤アキオから紹介されて
茨城県のZAPレーシング 長谷川氏から、クラッチに関する情報を
供給して貰い、丁寧な説明書と共にパーツが届く・・・
クラッチハウジングは 激しいオン・オフに負ける事のない、鉄製の
純正ハウジングで、アニーズ寺田氏にフルリビルドして貰ったものを
組み付けした・・・
確かに純正ハウジングは重いが、耐久性に重点を置いた考え方に賛同。
クラッチは、ZAPレーシングの長谷川氏が生み出す 後軸150PS
エンジンなど 3号機では到底無理な事だとわかっていたが、操作性を
考慮したならスプリングは軽く 遠心力を利用したロックアップ機構が
ベストであると助言を貰う・・・
アニーズの寺田氏も ZAPレーシング 長谷川氏も、ストリートだけ
ではなく、長年のレースやドラッグから培った貴重なノウハウであり
全く持って 感謝の言葉に絶えない。
仮り組みした腰上を分解・・・
粘土の形は悪くないが、シリンダーブロック上面からピストン
トップ外周面が0.8mmほど低い位置にあった為、より圧縮を
上げるべく、ここに来て更に0.4mm ブロック上を追加面研。
良かれと判断した面研であったが、実はこれが後々 厄介な事を
呼び寄せる・・・
そして更に 追い打ちかけるかの如く・・・
ヘッド本組み直前で 中2気筒に入っていたヘリサートスプリューが
抜けて来ると言う イレギュラーを発見・・・
この程度の事、同じスプリューを入れ直してやれば良いだろうと
軽視していたら、下ネジ穴が酷く緩くなっていて 思わず硬直・・・
上手く行くか自信はなかったが、既に2日後にシェイクダウンを
控えていたから、一か八か 溶接で盛って新たにネジ切を試みたが
当然、上手く行くはずがない・・・
スタッフがヘッドを抱えて走り、ダイヤモンドエンジニアリングに
駆け込んで頼み込む・・・
悪戦苦闘の末 応急処置してくれたダイヤモンドエンジニアリングの
スタッフ達に対し、あらためて感謝の意を伝えたいと思います。
クランクを正逆コントロールしながら カムホルダーを閉めるのは
カムホルダーネジ穴を傷めない 最良のやり方ではないかと・・・
お恥ずかしながらこの閉め方、完全自己流でして・・・
正しいかどうかは別として、ヘリサート地獄に陥りたくない一心から
若い頃よりこの閉め方に至り、今も恐くて ついやってしまう。
お陰でここまで 一度もヘリサートに発展する事がなく、助かったが
エンジンを組む事自体、我が愛機 A16R-001以来の事だから
まずはカンを取り戻しつつであって、最後まで 恐る 恐るだ・・・
ここで佐々木が合流して来た。
誠太郎一人だけに ピットワークを負担させるのは、さすがに酷な
事であり、最低限でのチーム編成が必要であると考えていた・・・
技術はもちろん、更にもう一つ 一番大切な資質を持っていなければ
レースメカは務まらないから しばらく悩んでいたのだが、佐々木は
ピット経験こそないものの 自分を抑える事が出来る性格の持ち主で
レースメカに向いているかもと判断され 抜擢となった。
もう時間もない事からピットワークだけでなく、レーサー製作の
段階から手伝って貰う事になった訳である。
作業は530スプロケットを、520へと切削加工している所だ。
もう一人、仁科も呼ばれる・・・
仁科はここまで 粘り強く勤務し続けて来ており、いわゆる最近の
キャラとは やや路線を画した、今どき珍しい異色派・・・
笹賀と共に戦った ZレーサーNew1号機でのレース経験もあり
また誠太郎自身 コミニケーション取れる存在として評価が高かった
事もあり、もう迷いのない抜擢であった。
これにてサンクチュアリーの 真サード世代、精鋭 揃い踏みである。
國川浩道がマシンを見にやって来る・・・
80%程度完成した 3号機にまたがり、念入りにポジションを
確認する 國川浩道・・・
前回とは違い、マシンの質量や 重量感まで感じ取っているかの
如く、イメージしているかの様であった。
この日、初めてのミーティングが行われる。
これから数年間、共に戦い続けて行くであろう メンバー同士の
記念すべき、小さな 小さな一歩であったろう・・・
その後 シェイクダウンを二日後に迎え、悪天候の予報が気に
なるも、あくまでも走る事を想定して作業は進んだ・・・
スロットルボディのデリバリーパイプ加工に手こずり、エンジンに
火が入ったのは 真夜中・・・
インジェクションマップを設定するのに 明日、強力な助っ人が
来店する事が決まっており、とにかく急がねばならなかったが・・・
火を入れた直後、 何と エンジンから異音が・・・
すぐに分解し 検証したところ、ピストンヘッドに打痕があるのが
わかるだろうか・・・
ピストンの手前、緩い弓なり状の線がシリンダーヘッドに僅かだが
ぶつかっている箇所だ。
よくある事と言えば それまでだが、粘土で燃焼室の隙間を確認した
あとに シリンダーを0.4mm追加面研したのが、直接の原因である。
少しでも圧縮を稼ぐ為に行った事だったが、急遽ピストンヘッドを
旋盤で削る事になり、逆に圧縮の低下を招いてしまった・・・
四の五の言っていても仕方がない・・・
この後 インジェクションマップの設定に移らなければ、明日の
シェイクダウンに間に合わないのだから、組み上げるしかないのだ。
時間が無かった為 エンジン再組立ての画像は撮れませんでしたが
最速で腰上を組みたて、お客人を迎えに JR柏駅前に・・・
苦しい時 いつも手を貸してくれる友人が、専門のスペシャリスト
同伴にて来店・・・
すでに小雨が降り出し、明日のシェイクダウン自体 怪しくなって
来てはいたが、やるべき事をやろうと 早速取りかかった・・・
(続く)