空冷Zのノーマルフレームをベースにしたマシンで 戦う事は険しい。
そんなクラスが TOTには1つだけ存在する・・・
筑波サーキットを一周59秒台でラップ出来ても、全く歯が立たない
最強・最速の 頂点が在るのだ・・・
空冷Z系のフレームは 1970年代に生誕したもので、現代の
スポーツバイクの構造とは 全くもって異なる資質である・・・
エンジンを基準に見て、スイングアームピボット部は かなり上に
位置しており、クランクケースの前後寸法が大きい事から 併せて
ピボット位置が後ろにあり、結果 スイングアーム長が短くなって
17インチタイヤには不可欠な要素、トラクションが掛かりにくい
構造となっている。
そもそも 17インチホイール車として設計されていないのだから
致し方ないのだが、不適合な部分は これだけではない・・・
エンジンから遠く離れた ステムヘッドパイプ位置・・・
むしろこの部分こそが 最も17インチホイールに適合していない
要素であるとも言える・・・
適切な表現かどうかは別にして、簡単に言えば アメリカンバイクの
フレーム そっくりなのだ。
実際 今のスポーツバイクのフロントフォーク長が760mm前後で
あるのに対し、空冷Z系は最低でも800mmの長さが必要になる。
「高くて 前にある、ステムヘッド」
まずこの点を解消しない限り、どうしても飛躍的な進化を果たす事が
できない。
加えて・・・
フレーム単体時でのキャスターアングル測定値が26度と、かなり
開いているから、ある意味 流してクルージングする時の乗り心地は
良いものの、スポーツライディングには 元々向かない設定である。
攻撃力強い ハイスペック17インチタイヤを生かそうとするなら
適したフレームジオメトリの マッチングが不可欠・・・
「低くて 後ろにある、ステムヘッド」
フレーム単体時でのキャスター角も 26度から25度に直された
Zレーサー3号機のフレームは、RCM USA A16の物であり
アメリカンではなく、生粋のスポーツバイクフレームである。
スイングアームピボット部とて、当然 進化している・・・
総削り出しにて製作されたピボットブラケットは もちろん
それだけで高剛性・・・
だが、それだけが利点ではない・・・
リア17インチ化に伴う アンチスクワット効果を抑制するべく
ノーマルフレームよりも ピボット位置を10mmローダウンし
高剛性なワイドスイングアームに併せて ピボットシャフト径は
ノーマルの φ16から φ20へと 大径化されている。
シャフト径が大径化されたのは、アームピボットだけではない・・・
Z系ノーマルフレームで 最大の泣き所であるステムシャフト寸法も
現行SSマシンと同じ径にまで 大径化され、ステムベアリングも
あわせて大型の企画品を採用・・・
車体を取り回しただけでも 十分にわかるのだが、A16は本当に
軽く転がる車体・・・
Zのノーマルフレームとは あきらかに「軸」の企画が異なっており
それは取り回した者を 驚かせる車体である。
過激なフルブレーキングの連続にも負ける事がない ステムヘッドと
そのシャフト剛性・・・
メンテナンスのたびに、ステムベアリングレースが落ちるなんて事は
もはや皆無である。
Zレーサー2号機から受け継いだシャシーは、ここに来て更なる
高い完成度へと至っているが、フレームの優位性だけで 太刀打ち
できる様な生易しいものではない・・・
有り余るエンジンのトルク&パワーがあって 初めて勝負になるから
パワーユニットの性能 ありきとも言えるのだ。
だが、空冷エンジンには 水冷エンジンよりもはるかにライフが
短いと言う 決定的弱点がある。
ちょっとでも無理をすれば、即 故障・・・
一般のコンプレッションゲージでは振り切って 測定不能なほどに
高圧縮化された燃焼室は 常にリスキーで、空冷はとにかく・・・
溶けるのだ・・・
ピストンの一部が欠損 あるいは溶けると言った現象は、茶飯事だが
トルク&パワーを求めるなら、高圧縮化はさけて通れない・・・
大きな舞台で戦い抜けるエンジンが必要なのだが、同時に壊れない
エンジンでもある事・・・
言うは易し・・・ 険しい道のりだ・・・
ハーキュリーズ & スーパーモンスターエヴォリューションクラスは
水冷エンンジン最速 & 空冷エンジン最速の、2クラス混走クラス。
当然の事ながら2クラスのマシン性能差は、尋常なものではない。
この10数年 この混走2クラスを見て来て感じたのは、とにかく
空冷スーパーモンスターエヴォは ハーキュリーズの引き立て役に
なってしまったと思える点・・・
水冷エンジンと 空冷エンジンとでは、埋めようのない差が存在し
それはもう それこそ、圧倒的なエンジンパワー差である。
以前はその混走2クラスを公平に分けて、別々で開催して欲しいと
願っていたものだが、今となってはもう それもどうでも良い事・・・
パワーとライフを求めて ウォータージャケットをその身にまとった
訳だから、マシンの水冷化は正当な進化である・・・
最強・最速の名を冠したクラスなだけに 徐々に水冷マシンが増加し
空冷マシンは減少の一途を辿ったから、スーパーモンエヴォは もはや
成り立たない おまけクラスと化したのかも知れない。
今後、単独開催などは 起こり得ないだろうし・・・
また 一つ下のモンスターエヴォクラスとの混走とて、実現は厳しい。
空冷最速スーパーモンスターエヴォリューションクラスは これからも
水冷最速ハーキュリーズクラスとの 混走で続くのだ。
その事実を、受け入れなければならなかった・・・
本来なら同じ空冷マシン同士で 競うべきなのだろうが・・・
スーパーモンスターエヴォクラスにおける 真の対戦者は、今や全て
水冷マシン群なのだと・・・
そういうレースである事を 受け入れざる得ないのだ。
なれば・・・
目標は ただ一つ・・・
空冷マシンであるにも関わらず、水冷マシン達と対等に戦う事。
空冷エンジンで、水冷エンジン車に 真っ向勝負を挑む事である。
それにしても、まさか空冷エンジンで水冷エンジンに対抗するとは
もはやマンガとしか、言いようがない。
だが こんな事・・・ 軽々しく口にしている訳ではない・・・
ハーキュリーズクラスのマシンと そのライダー達は、圧倒的であり
敬意と尊敬の念をやまないし、その存在は脅威などと言うものでなく
もはや恐怖 なのだから・・・
それでも あのクラスで走る限り、この目標からは避けて通れないの
だから、どんなに不利であろうと そこを目指すしかないのだ。
かつて経験した事がない、想像もつかない程の 高い壁を越えるべく
Zレーサー3号機は今、ようやく完成に向かいつつある。