テイストオブツクバ、水冷車&空冷車による 最速クラス混走での
決勝レースが 始まろうとしていた。
水冷 最強・最速クラス ハーキュリーズ。
空冷 最強・最速クラス スーパーモンスターエヴォリューション。
エントリー台数が少ない事から止む無く2クラスが混走となった事に
今も違和感はある・・・
だが この2クラス混走レースにエントリーできる者は 極々限られた
チームとライダーだけであるのだろうから、もはや水冷 空冷の垣根を
越えて壮絶化してしまった事は受け入れるしかないのだろう。
ウォーミングアップランを終え 緊張感がピークに達した場内。
アナウンスが止まった その直後
全車 一斉にスタート!
大排気量 ハイパワーマシンだけに与えられたエンジンが奏でる
加速音がホームストレートに残響を残し、誰もが圧倒された。
恐怖すら覚える このクラス独特の迫力と凄みに、全員言葉を失う。
ここまで来たら あとは全てをライダーに託すだけ・・・
クルー達は ただひたすら奇跡を信じて、見届けるだけだ。
間もなくして 遠くから全開走行のエキゾースト音が近づいて来る。
最終コーナーから 真っ先に飛び出して来たのは
何と! 國川浩道と Zレーサー3号機!
後続のマシンは全て 超高出力の馬力を誇る水冷最速マシンであり
もちろんライダーも選ばれし最強の男達であるから、目を疑わずに
いられない。
不謹慎な表現かもしれないが、本当は誰しもが
「空冷スーパーモンエヴォマシンが 水冷ハーキュリーズマシンに
勝てるはずはない」 と、思っていた事だけに にわかに信じられず。
だが今 目の前で、それは現実に起こっている。
スタートが良かった事も もちろんだが、國川浩道のライディングが
生んだ奇跡でもあった。
フルブレーキングからコーナーへ。
進入時にエンブレを利用して後輪を滑らせ始め
ほとんど減速しないままマシンバンク開始
大きく流れ 横を向き出す車体
それでもそのまま容赦ないスライドで クリッピングへ
前後タイヤの向きが全く異なる方向で スライド走行しながら
クラッチレバーコントロールで エンジントルクを上手く抜き
最短ラグでアクセルオン!
最速でコーナーを脱出!
勝負はインフィールドだ!
3号機のシャシー性能を使って コンパクトにコーナリング!
第2ヘアピンを立ち上がって バックストレート勝負になれば
その圧倒的エンドパワーに太刀打ちはできない・・・
残念だが 空冷Zの147馬力エンジンではパワー競争出来ないから
ここで引き離せなければ 必ず刺されるのだ。
6速クロスを駆使して回転を落とす事なくシフトアップし 車速を
乗せて行くも、暴力的な加速の違いにその距離はグングン縮まり
最終コーナーでは 稼いだアドバンテージがゼロに。
繰り返し 同じシチュエーションで飛び出してくるマシン。
この直後のラップタイム計測で、國川浩道 58秒664!
「やったっ!」
「スーパーモンエヴォクラスのレコードタイムまで あと少し!
ついに空冷Zで ここまで来た!」 と、歓喜に沸いた次の瞬間
パワービルダーの山根選手が 圧倒的なそのパワーを駆使して
裏のストレートで國川をかわし、そのまま最終コーナーへ
そして直後
山根選手が57秒843のタイムをマーク!
この周回、ハーキュリーズクラスのレコードタイムを とうとう
57秒台へ突入させた!
5周 6周と続く中、徐々にその差は離れて行く・・・
インフィールドでしか戦えない あきらかなパワー差であったが
あきらめずに猛追する 國川の走りを見て、あと10馬力・・・
いや あと5馬力でもいいから載せてやりたかったと、胸が痛んだ。
だが國川の走りは、消える事のない 炎のごとき。
最後の最後までわからないのがレースだと 言わんがばかりの
走りに、心を打たれた。
それでも、7周目に差し掛かった頃だったろうか・・・
後に聞いた話なのだが、かすかにエンジンに異常を感じたと言う。
ここまでどれほど良くても、完走できなければ終わりであるから
スローダウンは致し方ない。
8周目以降、エンジン温存の走りに切り替えた 國川浩道の判断。
あらためて強く感じた、馬力のリスク・・・
國川の直感は あたっていた。
次回(最終回)