前回より 引き続き。
ビッグバルブ化やポート研磨、またZX10Rのスロットルボディを
ダイレクトに取り付け出来る様 大掛かりな加工を施してある 最初の
シリンダーヘッドが使えない為、予備のノーマルシリンダーヘッドを
組んで走行をし続けて来たが・・・
ノーマルヘッドに潜んでいたクラックからオイルが滲み、走行終了。
悪い形で終わった 10月24日の走行であった・・・
翌25日も連続で走行予定が組まれており、急遽戻って クラック部を
外側から補修。
補修部に盛り付けたケミカルの硬化時間が短かった為に 半信半疑で
火入れをしたが、ひとまず空吹かしでは 滲みなしだ・・・
あけて翌日・・・
昨日とは打って変わり、どんより重い 曇り空の筑波サーキット。
シリンダーヘッドは応急処置ではあるが、車体のセットアップを
継続しなければならない・・・
とにかく今は サスも姿勢も、何もかもが決まっていないのだから。
この日はかつて1号機・2号機のライダーを務めた 初代ゼッケン39
上田隆仁主催の走行会で、当然の事ながら 面識のあるこの二人・・・
3号機のセットが 思う様に進んでいないと言う事を聞いた 上田が
好意から走行枠をキープしてくれていたのである。
同じオリジナルフレームでも 2号機の時代は空冷マシンだけで
編成されたレースだったが、今はハーキュリーズマシンと混走での
レースとなり、皮肉にも ハーキュリーズにエントリーをしている
上田とも競う事になる・・・
空冷Zのエンジンで 水冷最速クラスのマシン達と戦う事が、如何に
厳しく困難な事かを 上田自身 一番よく知っているだけに、いささか
心配そうな面持ちであった。
デビュー戦である事から、全く熟成できていないのは 否めないが
今の段階に来ても 車体の方向性が見えないでいる・・・
一つはリアタイヤの接地感で、如何に2本サスとは言え もう少し
リアタイヤをつぶして回りたいと言うのが 取り組んでいる課題だ。
A16の1R9Sフレームは Zフレーム比較で、アームピボットが
10mm ローダウンされている。
180/55-17サイズのリアタイヤに合わせて 設計されており
それは理にかなったピボット位置なのだが、今回はリアタイヤを
200/55-17とした事から タイヤ直径が大きくなり、リアの
車高が若干上がる形になった為 アーム垂れ角を少なくして補正を
していた。
アーム垂れ角が弱くなれば、アンチスクワット性は抑制されるが
本来であればネガな要素となるアンチスクワット性が、ここでは
逆に欲しいとなり、もう少しだけアーム垂れ角を強くしたいと言う
見解に至ったのだが、リアの車高を上げずに垂れ角を強くするには
ピボット位置を上げねばならなかった・・・
急遽、アームピボット穴径をオーバーサイズに切削加工する事に。
コンパクトサイズのフレームであれば ギリギリ固定できる加工機が
井上ボーリングさんにあった為、ピボット穴径を φ20からφ30に
左右精度を合わせてボーリング。
工場の旋盤とフライス盤で削り出した、2段構造式の偏心タイプ
アタッチメント。
ビシビシ寸法の高い精度で 軽圧入とし、10mmローダウンから
5mm上に戻す方向へ。
ここに来て これだけ大掛かりな仕様変更を行っているのだから
熟成と言うよりも むしろ、まだ造っている感が強かった・・・
時間が押し迫る中で これだけ大掛かりな作業を、しかも高い精度で
こなしているのだから、真サード世代達の疲労感はピークに・・・
だが、ここで立ち止まる訳には行かない。
残された時間の中で どこまで出来るか・・・
國川浩道は微塵も あきらめていないのだから。
何度かホームストレートを通過したが、昨日の走行から引き続きで
まずクラッチは問題なし。上昇した出力をきちんと伝達できている。
問題はシリンダーヘッドのクラック補修部で、このピットにいる
誰しもが そこだけを気に掛けていた。
昨日~今日に掛けての2日間で リアタイヤをつぶす為のセットが
試まれており、車体姿勢と前後サスの調整に照準をあてて コース
周回が進む中・・・
あきらかに速度のアベレージが上がり出し、タイムが徐々にアップ。
だが、0秒フラットに近づいた その直後・・・
10周ほど走った所で シリンダーヘッドからオイルが流れ出した。
(ダメか!)と言う言葉が 全員の脳裏をよぎる・・・
最悪の展開であった。
走行終了。
昨日同様、この日もまた 成果が得られず・・・
レースウィークを目前に、現段階では前進の兆しなし・・・
國川は暫くの間、厳しい表情のまま立ちすくんでいた・・・
切迫感に包まれるピット。
後談となるが、國川をよく知る 江尻氏いわく
「國川と言う男は 常に現状を受け入れ、今自分がすべき事は何かを
考えている男なんです。 ただ腹を立てるのではなく、あくまでも
勝利を目指して どんな時でもあきらめない、そんな男なんです」と
語ってくれた・・・
もう一度・・・
一つひとつ 解決して行こう。
そして来週の走行と レースウィークの走行枠を、有効に使おう。
3歩進んだのに 4歩下がった様な感はあるが、我々も國川同様
あきらめる事なく・・・
強く 前に進むために。