出来上がったばかりの カスタムバイクは、何もその直後から完璧な
走りを見せる訳ではない。
如何に優れた世界最高峰メーカーのパーツで組み上げられていたと
しても、セットアップなくして その性能は発揮する事がないだろう。
最後の仕上げ工程があって始めて、我々の仕事はコンプリートする
ものだと 常々捉えている。
故にレースとカスタムは、基本的には同じであり 密接なのだと・・・
切り離せない関係であると言えるのだ。
國川浩道は この日もセットに徹していた。
コーナーからコーナーへ、一つひとつを 丹念に確認しながら
手の加え方をイメージして行く・・・
その走りは、タイムを伸ばす行為に移行して行きたい気持ちを
抑えるが如くであった。
彼の姿勢、このストイックさには 毎回学ばされるものがあるし
マシンとはこうして開発されて行くのだろうと、わずかながらに
実感すら憶えさせられる。
11月10日の決勝デビューまで 残す所あと一ヵ月余りと迫った
ある日の走行で、ほんの少しずつではあるが セットは進み出した。
練習走行スケジュールのスパンが 徐々に狭まって来ているから
真サード世代のメカニック達は いよいよ時間に追われるばかり。
現場での迅速かつ、正確な作業の遂行は言うに及ばず・・・
走行が終わり成果を持って戻れば、セットが進んだ分だけ皮肉にも
開発や対策と言った 新しいテーマに即、取り掛からねばならない。
ファイナルを決める為には トランスミッションの各ギヤ変速比も
マッチングしている必要があり、むしろ そこが決まってなければ
前には進めない段階になった。
Z系ノーマルミッションと、Z1000J/R系ミッションに加え
サンクチュアリーコウガから取り寄せた 6速クロスミッションの
各変速比を比較する・・・
Z系ノーマルミッションの変速比より 他の2種の方が良い数値を
示しており、また 今まで使用していたZ系ノーマルミッションが
Zレーサー1号機の使い回しだった事から 消耗も著しかった為
交換する事になる。
今回採用したのは、6速クロス。
今までストリートでは使って来たが、レースで本格的に使用するのは
これが初めての事だ。
「レースでは通常、ストリートでの10倍 負荷がかかるんです」
國川浩道が語った あの言葉が脳裏をよぎった・・・
ストリートのZなら問題がなくとも、レースでハイレベルな走行を
した途端 トラブルが出るなんて事は、よくある話である。
だがこのEVOシステム、よくよく検証するとミッションカバーの
強度・剛性が高く、ミッションが配置されるクランクケース周辺の
ホールド剛性が相当上がっていそうで、そこは良い構造だと感じた。
いずれにしても この6速クロスEVOシステムの使用結果は、後で
サンクチュアリーコウガの立入に 是非とも報告してやりたいと思う。
以前から開発を進めていた製品の モデリングが送られて来た・・・
140度超えと言う油温上昇に 決定的な効果を発揮するであろう
待望の製品が、Zレーサー3号機のセットアップと時を同じくして
進行していたのである。
かつて New1号機時代・・・
YRPレーシング製オイルポンプは あきらかに高性能であった。
今使用しているオイルポンプは なぜか油圧計での測定値が低く
常に一抹の不安を抱えていたが、この製品の投入で 状況は大きく
改善されるだろう。
故YRPレーシングY氏と ご遺族の方から、正式にパテント使用の
承諾を頂けたのには、ひとえに オオノスピード代表の大野さんから
K・Mさんをご紹介頂き、そこから進展できたものである・・・
関係した皆様には この場をお借りし、改めて感謝の意を伝えたい。
本当にありがとうございました。
開発にあたっては誠太郎はもちろん、アルカディア代表 高野氏の
プロジェクト参加が不可欠で、この日も打ち合わせに余念がない。
この製品に関しては いずれ、きちんとご紹介したいと思います。
腰上の仕様も、徐々にリメイクが施されていた・・・
燃調マップをセッティングするにしても、エンジンスペックが
決まってないと、毎回大きく調整を行わなければならないから
少しでも本番仕様の内容にと 走る度に変更が加えられていた。
アニーズ寺田氏から ZEP1100用のピストンを供給して貰い
GPz1100のバルブリセス角度に切削加工して流用した・・・
本来予定をしていた イタリア流通ヴォスナーピストンの ハイコンプ
仕様が間に合わない事から、今戦はこのピストンで臨む事になったが
見ての通りのトップボリュームだから コンプレッションが期待できる
優れものである。
長く待機していたカムシャフトも、ようやく今回から出番に・・・
今までのカムとは全く異なるプロフィールで、シリンダーヘッドの
そちこちにカム山がヒットする為、何ヵ所も削って逃がしている。
お蔵入りしていたバルブスプリングのテスターを引っ張り出し
バルブスプリングのバネレートと 線間密着を測定・・・
カムシャフト本来の性格を 正確にバルブの動きへと伝達するには
バルブスプリングの働きが重要で、ここを軽視すると狙ったパワーが
出ないばかりか、場合によってはバウンスによりバルブとピストンが
ヒットする事にも成りかねないから、より正確な測定が求められた。
もちろん スプリングのバラつきも、ここでしっかり認識する・・・
ZAPレーシング代表 長谷川氏から バルブスプリング調整用の
精密シムが送られて来た・・・
市販のスプリングを そのまま使用するのでは、本来必要となる
適正レートが得られない為、実はここが最重要ポイントでもある。
これほどハイリフトだと作用するランプ角がきつすぎて、しかも
バルブスプリングレートも上がってるから カムホルダーネジ穴が
切れまくるのではないかと、恐る恐る ボルトを締め込んで行くが
今回もクランク回転でリフトをコントロールしながら締め込む事で
一ヵ所もネジ切れる事なく、規定トルクでしっかり固定・・・
ZレーサーⅢ 最後のパーツ、WEB 435カムシャフトが装填。
当初に予定をしていた Zレーサー3号機のエンジンは、これで
現在プラグホール修正に再チャレンジしている、最初のシリンダー
ヘッドだけを残すのみとなった。
空冷Zのエンジンチューニングは、趣が深い・・・
ストリートでは行けても、レースでは壊れてしまうギリギリの線が
あり、そこも踏まえて優れたエンジンを造らなければならないから
ストリート専門のノウハウでは 太刀打ちが出来ないもの。
スピードショップイトウの代表 伊藤アキオを始めとし、これまで
長きに渡り空冷Zでレースを続けて来た アニーズ寺田氏、並びに
ZAPレーシング長谷川氏に感謝しつつも、同時に頑張らねばと
改めて強い思いが こみ上げた・・・
終日回りまくる、本店のシャシーダイナモ。
どうやら誠太郎もここに来て、インジェクションマップ調整に
自信がついて来た様だ・・・
こうして繰り返されるリメイクを完了させ、走行予定日を迎える。
10月に入った、早朝の筑波サーキット。
この閑静に包まれた朝方のサーキットに、これからも まだ何度も
足を運ぶ事になるだろう・・・
今日のZレーサー3号機は 完成率で表すなら、70%程度・・・
サイレンサーも近接排気音量値を重視したもので、抜けの悪い
仕様であり、シリンダーヘッドとて相変わらずノーマルのままだ。
かまわず國川浩道は コースイン・・・
残された時間は極めて少ないが、どこまで完成度を上げられるか
与えられた時間を使い切り 今日、この日のセットアップに臨んだ。
ゼッケン39 最後の挑戦。
決勝デビューまで、あと40日・・・